人のコミュニケーション活動の解明を通して人が人らしく生きることの意味を考える
認知的コミュニケーション研究室《竹内研究室》 |
研究の取り組み
主な研究テーマについての概要
認知的コミュニケーション研究室では,5つの研究対象に関心をもっている.
他者認知 共感・信頼 問題解決 情報共有 運動・身体
これらに対して,認知科学,人工知能,情報科学,社会心理学,キネマティクス,対話・言語分析などの理論や方法論に基づき,次の5つの研究テーマに取り組んでいる.
- Human-Agent Interaction (HAI)
自律的に振る舞う存在としてのエージェント(人間も含む)と人間とのインタラクションに関する研究 - Human Communication
人間が他者と社会的な関係を構築する過程の解明に関する研究 - Identification / Ownership
自分の身体や自我が他者との関係の中でどのように同一視され,所有されていると認知しているかに関する研究 - Collaborative Environment
他者と協力してある問題を解決することを効果的に実現するための環境デザインに関する研究 - Social Cognition
集団スポーツにおいて自分と自分を取り巻くチームメイトや対戦相手ととのインタラクションを通して認知される情報の理解に関する研究
1.他者認知プロセスの解明とモデル化
狙いと目的
日常生活の中において,客としてこんな「居心地の悪い」状況を経験したことは誰にでもあるのではないだろうか.
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洋服屋や家電量販店で商品を見ているとき
店員:「いらっしゃませー.何かお探しですか?」「その色,今年流行ってるんですよ」「今日はどんなものお探しですか?」 -
ファミリーレストランでオーダーしたいとき
店員:「ご注文お決まりになりましたか?」「またしばらくしましたらご注文をとりに伺います」 -
美容院(美容室)で髪を切ってもらっているとき
店員:「連休はどちらかに出かけられるんですか?」「最近,僕,シルバーアクセサリーにはまっちゃいましてね」「AKBの中で誰か推しメンっています?」
これを逆の視点から考えてみると,自分の心の中をしっかりと読んで適切な対応ができる店員がいたら,客としてはとても快適な接客サービスが提供されたと感じるはずである.それだけではない.客を不快にさせないどころか気の利いた気持ちい接客をする店員ならば,店内での自分との位置関係や距離,視線の方向,自分への接近の仕方,話かけるときのタイミングなどの非言語的な行動を適切にマネジメントしているはずである.しかしこのような接客スキルはマニュアル化されているわけではなく,個々の店員が自らの経験などから修得した能力であると言わざるをえない.
そこで本研究では,他者の内的状態(心)を推定する「他者認知」に注目し,人間はどのようにして本来直接観察することができない他者の心を知ることができるのかを科学的に解明し,計算論的な認知モデルを構築することを目指す.
取り組んでいる中心課題
下図のように,人間が他者と関わるとき,人間(エージェント)は他者に対するコミュニケーション欲求に対して2つの直交する成分をもつ.
- Control成分
- 他者に対して積極的に関わろうとするコミュニケーション欲求の成分.
- Acceptance成分
- 他者からの働きかけに対してそれを受け入れようとするコミュニケーション欲求の成分.
本研究では,2者間のインタラクションにおいてそれぞれがこの図で示される状態のいずれかの点をとり,他者とのインタラクションを通して逐次的に相互の状態が変化していくと考える.この相互の状態遷移は連続的に推移し,それに応じた個々の身体の状態や2者間の物理的な位置関係や互いの向きなどが動的に定義される(インタラクション誘起モデルの構築).したがって,2者間のインタラクションにおけるそれぞれの振る舞いから,この2つの成分(軸)からなるコミュニケーション欲求空間上の各内部状態をインタラクション誘起モデルに基づいて推定・予測できるのではないかと考えている.
実験の様子と分析結果(ヒートマップ) モデルに基づくコンピュータシミュレーションの結果
学術的意義および応用
「他者認知」プロセスを解明しモデル化することは特に研究発展のための基盤にもなり,かつ以下の領域での貢献が期待できる.
- 人工知能 (Artificial Intelligence) への貢献
- 人間と自然に共生できる高度知能化人工物を創るための基礎モデルができる.
- 認知科学 (Cognitive Science) への貢献
- エージェントの振る舞いを通して,人間が自分の心を通して外界とどのように関わり行動しているかを示す認知過程を明らかにできる.
工学的な応用としては,次世代技術が人間にとって本質的な価値をもつかどうかを左右する人工システムの設計およびそれを通した人間とのインタラクションのデザインに寄与すると予想される.
- 相手(自律的かつ知的なもの)の状態と環境の状態に基づき,狙った効果を最大化する行動を自律的かつ適応的に実行する人工システムの実現.
- 気遣い,共感,思い遣りができる「優しく信頼できる」人工システムの実現.
2.相互了解的/共感的なンタラクションの認知科学的分析&システム開発
狙いと目的
他者の振る舞いや考え・態度・信念などの内的状態に対して相互了解 (rapport) ・共感 (empathy) することによって,人間はその者の行動に影響されたり,その者と自分とが同一化しているような認識をもつ.しかしこのような相互了解的・共感的な人の反応は,現実には極めて個人的な想定(しばしば幻想)に基づいて誘発していることも少なくない(「こんにゃく問答」).にもかかわらず私たちは互いに分かり合えたと納得・実感したりしている.そして現実にそれで問題なく円滑に社会的関係を維持できたりしている.このことから,私たちの他者との社会的関係は,たとえ客観的事実と当事者間の主観的事実との間に大きなギャップがあったとしても,何かしらの要因や手続きによってそれが継続的に維持されている可能性が予想される.視点を変えると,ICTを活用したコンピューティングによる客観的事実に基づく情報環境は,その中の個々の人間にとってはそれぞれが有する主観的事実とは異なったものになってしまう可能性がある.
この問題を解決するためには,人間同士の相互了解的・共感的反応が引き起こされている状況における両者の間のインタラクションを分析とそれに基づく相互認知環境モデルの構築を行い,人間と情報環境とのインタラクションへの適用を試みる必要がある.そこで本研究では,現実になりつつあるIoT時代における日常生活における健全な情報活動と情報環境の構築を目指し,その一つのアプローチとして共感性や信頼性に着目したサイエンスとエンジニアリングの融合点に立脚した研究を行なう.
なお,このとき他者という存在は必ずしも「個」である必要はなく,特定のグループやコミュニティ,あるいは空間や状況に対しても成り立つことが明らかになっている.
取り組んでいる中心課題
- (1) 視線を構成する眼−頭(顔)−体(胴体)間の向きの相互作用によるアテンションの表現
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他者に対してある目的をもって意図的に表示する視線と,反射的に注視したり潜在的な興味や関心に基づいて「思わず」向けられる視線の違いを分別するための身体の動きの特徴を抽出しモデル化する.空間的構造と時間的構造の相互作用が,対象に対する興味や関心の高さの推定に強く寄与すると予想している.
- (2) 遠隔コミュニケーション環境間の連続性・共通性による認知的効果
- ビデオ対話システムなどを利用した遠隔コミュニケーションは,互いに異なる環境間で行われる.しかし対話参加者が一堂に会する一般の会議では,会議の場所は1つであり共通の環境で対話が行われる.これまで多くの遠隔コミュニケーションに関する研究では,対話者間の視線など非言語的・パラ言語的な情報をいかに補うことによって一般の会議と同様の対話環境とすることができるかという点が課題とされてきたが,そもそもこれが円滑かつ自然な対話を実現するための遠隔コミュニケーションにおいて解決すべき本質的な課題であるという根拠は,実際は乏しいのが本当のところである.そこで本研究では2地点間の対話環境の連続性と共通性に着目し,対話環境そのものが遠隔コミュニケーションのパフォーマンスに与える効果について検証する.
- (3) 共有された体験の認知を誘発する2者間の配置
- 2者間で共有されているはずの体験(共有体験)を想起する際の両者の身体配置によって,想起される情報のフレーム(認知の枠組み)が異なる可能性に着目し,それを実証する.互いに正対する場合や90度の角度での位置関係,同じ向きの場合といった身体配置要因と,共有体験をしている際の2者間の身体配置による交互作用の効果に関しても検証していく.
【これらの研究のフレームワーク】
- 認知リソースと行動リソースにおける経済的合理性に基づくコンピュータシミュレーション
- 行動コンテキストの分節化・統合化と記憶チャンキングにおける経済的合理性とコンピュータシミュレーション
- シミュレーション結果を検証するための統制実験およびシステム実装
学術的意義および応用
「あれどこやったっけ?」「こないだの話ってどうなったっけ?」「あのとき着てた服ってどれだったっけ?」など,私たちの日常会話の中ではすでに話し相手と話題の対象が共有されており,「あれ」「これ」「それ」といったような指示代名詞を通してそれらに言及することが多くある.しかしここで1つ立ち止まって考えてみる.本当にこのような会話をしている者同士は,互いの想定しているモノやコトは共通のモノやコトを指し示しているのだろうか?水平線に沈む夕陽を見ながら互いに視線も合わせずに「いい日だったね」と1人がつぶやき,隣の者が「うん」と言う.この短い会話の背後にある相互的な他者認知やそのとき頭の中で思い浮かべている1日の出来事は何か,など当事者となった際には直観的には理解しているつもりになれるものも,科学的視点に立つと途端に説明がつきづらいことが私たちの日常の中には多くある.
人同士での交感的なコミュニケーションの観点であれば,気が利く,気が合うなど個人の特性や気質に帰属させられる個人的問題であるが,コンピュータやロボットなどを始め高度な知的判断に基づく情報を提供する環境が今後私たちの日常生活に浸透してくることが予想される中において,この研究の成果をこれらに適用することによって高度な信頼感と共感を保ちつつ,人のように「賢く」人と「心が通じた」人工物の実現の基盤になるはずである.
3.インタラクションのフィールド分析を通した学習・技能修得
狙いと目的
人間には様々な欲求があり,生存や生理に関する低次な水準から,他者から認められたい,褒められたい,敬われたいといった社会的承認に関わる高次な水準に渡り,それらが複雑に影響しあって人の信念や行動として表出する.ちなみに前述の「他者認知プロセルの解明とモデル化」では,この中でも特にコミュニケーション欲求に着目している.
人間の欲求の中でも特に承認欲求 (need for approval)は,近年のSNS (Social Network Service)の普及に伴って社会的な問題の1つとしても話題に挙がることも多くなってきている.この承認欲求は誰に承認されたいかによって,大きく2つの性質に分類することができる.
- 自己承認
- 自分による承認.自分自身が望んでいる状態に自己像が重なっているかどうかに対する評価と認識.
- 他者承認
- 他者による承認.自分が他者から認められている(存在を尊重されている)かどうかに対する評価と認識.
- (1) 教えを請われて教えることによる自尊心の向上を利用した学生間の相互学習環境の構築
- 他者から自分が有している知識やスキルに関して教えを請われることは,一般にある水準での社会的承認(他者承認)として認めることができる.さらに学生間の自主的な学び合いの環境(相互学習環境)では,教師・教員と異なり学生が他の学生に何かを教えることは必ずしも義務ではなく,自発的な行動であり,他者への貢献にもなる.このことは,自分は他者に教えることができるだけの知識とスキルを有しているという内発的な自己承認にも繋がり,ここでも承認欲求を満たすことが可能になる.本研究は,特にプログラミングスキル修得過程において学生間での「教えてもらう」「教える」行動をエージェントを介してマネジメントすることで,学生集団全体が一様に高い水準でのスキル修得を実現するためのインタラクションをデザインすることを目指す.
- (2) 集団スポーツにおけるトレーニングで用いられる集団語を通した間身体的スキルの修得
- 集団スポーツでのコーチングにおいては,しばしばその集団内だけで共有される固有の単語(集団語)を聞くことができる.本研究では,このような集団語が使用される過程において,個としての競技者に閉じた言語理解および体感へのフィードバックからチームとして競技者間に生まれる間身体的認知への変化が存在することを実証する.
- 人の認知的能力に関する計測とモデル化
- 認知的負荷の低減を目的としたインタフェースデザイン
- 社会コミュニティの形成や情報共有環境の構築
- 直接研究室に連絡するか,静岡大学イノベーション共同研究センター担当者に打診する.
- 知財の取り扱いに関する確認.
- 研究予算,人員に関する確認.
- 共同研究開始.
- 電子情報通信学会 ヒューマンコミュニケーション賞 (2004.3)
- 情報学ワークショップ 最優秀論文賞 (2005.9)
- 情報学ワークショップ 奨励賞×2 (2006.9)
- HAIシンポジウム2016 Outstanding Research Award (2016.12)
- HAIシンポジウム2017 Student Encouragement Award (2017.12)
- AAI-2017 Outstanding Research Award (2017.7)
- 電子情報通信学会 ヒューマンコミュニケーション賞 (2018.12)
- HAIシンポジウム2020 Impressive Long-paper Award (2020.3)
- ヒューマンインタフェースサイバーコロキウム 優秀発表賞×2 (2020.10)
- 電子情報通信学会 HCS研究会賞 (2021.3)
- HAIシンポジウム2021 Student Encouragement Award (2021.3)
本研究では,アクティブラーニング場面のように学習者同士が互いに教え合ったり,課題を共有してその解決に取り組むような状況では,この参与者間での個々の承認欲求に基づくインタラクションが参与者の発話や行動の重要な要因になっていると考えている.そのため,学習者間の「教える」「教えられる」行為における自己承認と他者承認の寄与力に基づくインタラクションモデルを構築し,効果的な学習を実現する学習環境のデザインを目指す.
取り組んでいる中心課題
研究テーマの受け入れ(共同研究)について
大学,研究所等の学術研究機関の研究者と
基本的に制限はありません.互いに面白いという思いを共有できればすぐにでも一緒にやりましょう.
また博士取得後のポスドク期間の修業の場としても,若手研究者を積極的に受け入れています.学振特別研究員(PD)として来て頂いたり,こちらが用意する人件費の中で学術研究員(あるいは特任助教)として勤務して頂くことも(予算があれば)可能です.この場合,静岡大学および当研究室の研究関連のリソース(電子ジャーナル,実験室,各種機材,ネットワークなど)はほぼ制限なく利用可能です.
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